私のチュン 連載4
私のチュン
スズメは集団生活をしているからかも知れないが、他者とのコミュニケーションを、とても大事にしている。 喜び・悲しみ・怒りなどは、どの動物でも、同じかも知れないが、特筆すべきは、「挨拶」 だろう。
チュンチュン・チュンチュンと五月蝿く聞こえ、処もかまわず、勝手気ままに鳴いている様に思うかも知れないが、そうではない。 ルールもあれば、作法もある。
人間の中には、こちらが挨拶しているのに、挨拶を返さない輩がおる。 挨拶は目下の者が、目上の者にするもの、と考えている輩もおる。 しかし、スズメの世界では、礼儀知らずは、一人も、いや、一羽もいないと思って間違いないだろう。
挨拶が出来なければ、スズメ じゃない。 このことは、欧米でも同じ考え方で、日本人は気をつけなければいけない。 特に、会社人間がそうだ。 ワシの方が目上だからとか、職位が上だからと、以心伝心を当て込んでいると、「教養の無い人間」 と見なされるだろう。
① 返事は二つ、声は大きく、はっきりと
チュンと挨拶を受ければ、チュン・チュンと、二つ返事を返すのが礼儀だ。 人間のように、「返事は一つ」 と言われることも無い。 そして、当たり前のことであるが、声は大きく、はっきりと発音しなければならない。 どれぐらい大きな声かと云うと、家のどの部屋にいても聞こえる位だ。 これは、まあ、私の家が小さいからだと言われれば、それまでであるが。
発音であるが、皆さんがよく聴いている、五月蝿く思っている、あの鳴き交わしている声がそうだ。 実に明瞭で、透明感のある発音だ。 スズメは色々と複雑な言葉を持っているが、この挨拶が基本の発音であろう。
二つ返事を受けると、普通は、こちらからも、また、二つ返事を返す。 これを繰り返す。 繰り返すと言ったが、隣のスズメにも順番に、挨拶するから、止め処なく聞こえるのかも知れない。 いづれにしても、私のチュンに挨拶するとき、何処まで繰り返せば良いのか、未だに分からない。
長くし過ぎると、ジュ・ジュ・ジュ・・・、「お前は、阿保か」 と云う風に、切れることもある。 また、適当に、打ち切ると、チュン・・・チュン・・・チュン・・・、と不満げに催促する。 それでも、無視すると、今度は、こちらの呼びかけにも、応じてくれないようになる。
時に、一つ返事しか返さないことがある。 これについても、どういう規則があるのか、私は知らない。 話題を変えるためなのか、生返事なのか。
② 呼びかけには、何が何でも応答する
これは、挨拶ではなく、存在確認のために行う鳴き方であると考えている。 疲れていようが眠たかろうが、「元気か?」 と聞かれれば、それなりの返事をするのが決まりだ。 コンラート・ローレンツの 「ソロモンの指環」 の中に出てくる、「私はここよ、あなたはどこ?」 に相当する問いかけには、何が何でも応答しなければならない、という話と同じである。
cf. ソロモンの指環
cf. ソロモンの指環の世界
刷り込み
ハイイロガンだったと思うが、人工孵化したとき、最初に見た者を親と思い込む、例の、「刷り込み」 というものがある。 かって、孵化を見守っていたコンラート・ローレンツは、ガンの子供から親と思われてしまった。
ガンの親代わりになるというのは大変で、一晩中、それも一時間おきに、子供が、「ヴィヴィヴィ・・・」 と鳴くのだ。 これに対し、「ガガガ・・・」 とか言って応答しなければ、死に物狂いで泣き叫び、とても寝ていられないという話であった。
そして、私はテレビ・アニメで観たが、「ニルスの冒険」 の作者がこういった状況で、「ヴィヴィヴィ・・・」 と鳴く声を、「私はここよ、あなたはどこ?」 と訳したということだ。 それを、コンラート・ローレンツは名訳であると褒めている。
私のチュンが頸を丸めて眠りこんでいる時に、「チュン」 と呼びかけたことがある。 すると、その姿勢のままではあるが、かすかに体が揺れる。 聞き取れないぐらいではあるが、「チュン」 と返事を返してくれていた。
数回繰り返したが同じだ。 眠りが薄い時には、頸を元に戻して、即ち、居住まいを正して、応答する。 決して狸寝入りはしない。 都合の悪い時に、狸寝入りをするのは、私だけではないだろう。
この時の返事は、挨拶の時のように、大きな声でなくても良い。 私のチュンを手のひらに乗せて、一緒に昼寝をしていたとき、チュンチュンと小さな声で呼びかけたことがあった。
すると、小さな声でチュンチュンと応えてくれる。 チュンは私の耳元にいるから、挨拶の時の大きな声で、返事をされては、鼓膜が破けるかも知れない。
要するに、公式の場で、皆と挨拶を交わすのと違って、プライベートな場所で、寄り添って、お互いの存在や気心を確認し合う分けである。
あるとき、このような状況下で、大きな声で呼びかけたら、眠りの邪魔をしたのか、機嫌が悪かったのか、切れてしまった。
ちゅっちゅっちゅっちゅっ ちゅっちゅっちゅっちゅっ ・・・ と、 いつまでも大声で怒鳴り散らす。
やはり常識をわきまえないと、スズメからも馬鹿にされる。 無茶はいけない。
呼びかけても返事をしないことがある。 隠れているときだ。 外出して帰宅したら、チュンがいない。 ほったらかして遊びに行ったことを怒っているのか、泣き寝入りしていたのであろう。 こういう場合、必ず、息を潜めて隠れている。 呼びかけても応答しないし、カサッとも、音を立てない。
最近は、隠れ場所も分かるようになったが、狭いリビングであるのに、見つからず、苦労したこともあった。 ソファーの下の新聞紙の中に隠れていたりした。
③ 返事は即座に
私が、「チュン」 と呼びかけたら、「チュン」 か 「チュン・チュン」 と即座に応答する。 その即座が、尋常で無い。 私が、「チ」 と発した途端に返ってくる。 だから同時に、「チュン」 と言っているように聞こえる。
初めは、偶然の一致かも知れないと思っていたが、そうではなかった。 タイミングを変えたりして試したが、偶然ではなくて、敏捷性のなせるものであった。 この応答速度は、陸上の短距離選手の反射神経で持ってしても、スズメにすれば、スローモーションを見るようなものだろう。
鳴き交わしの間隔にも規則があるようだ。 ピンポンでラリーが何回続くか、というのと同じで、私は、鳴き交わしも、十回は続けられない。 「付き合ってられない」 と言わんばかりに、打ち切られてしまう。
吃驚するほど、語学に堪能な人が沢山いるが、スズメ語も研究して欲しいものだ。 なにもチンパンジーだけが研究対象では無い筈だ。 スズメ語も分からないで、チンパンジーは無いだろう。
それとも私が、世の注意喚起のため、「スズメの鳴き交わしラリー」 のチャンピオンとなって、ギネスブックに登録する手もあるかも知れない。
今のところ、私が世界チャンピオンであろう。 異議のある方は、申し出られたし。
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